基本的にパフォーマンスにとって大切なのは身体の使い方です。
もちろん下半身や体幹のエネルギー源となる部分の筋力の強さも大切ですが、少なくとも、腕は力を抜いて、下半身による体重移動や、体幹の回転に「振られる」ように使うことが大切です。そのため、筋力にパフォーマンスアップを求める意識が強過ぎると、逆にパフォーマンスが低下してしまいます。筋力強化によるパフォーマンス改善は「正しく連動したフォーム」があってこそ。
体重が移動していくことで生まれる「慣性力」や各種の「作用-反作用」、「テコの原理」など自然に生まれてしまう力やスピードの方が意識して筋力で生み出すことのできる力やスピードよりもはるかに大きいものです。
そして、頑張って力を出そうとし過ぎることによる筋肉の「緊張」はそうした自然に大きな力を生み出す連動の邪魔をします。ボールの重さが何kgもあるようならばこのようなことは言いませんが、ボールは硬球でもたったの145gしかなく、生理学的にも超高速で動く物に大きな力を働かせることはできません。
ヨシハルさんがどういう意識をもっているのか実際のことは解りませんが、スピードだけでなく、コントロールの面もカーツでということでしたので、かなり筋力で動作を行う意識が強いのではないかと感じました。
まず、野球のパフォーマンスにとっても怪我の予防にとっても何よりも大切なことは「身体の使い方」であり、たとえ筋力トレーニングであっても、効果的に力を伝えていく下半身の使い方や各種の姿勢ができるようになるために行なうのです。決してパワーアップしてスピードを増すのではありません。
私は阪神の投手のフォーム改善と筋力トレーニングに直接かかわり、昨年もこのような考え方で毎試合フォームチェックを行なってきました。現在の身体の使い方は、人間が行なえるほぼ完璧な状態なので、シーズン中はフォームが崩れないように必要な筋力を維持するだけです。その投手の筋力は12球団の全投手の中でも、決して上位にはいるレベルとはいえません。
その彼が今より筋力を高めたとしても、昨年以上のボールが投げられるようにはならないでしょう。それなのに、彼のボールがとてつもなく「キレがあり速い」秘訣は、柔軟性が全身の関節にあり、決して力むことなく身体を力の伝達物として、その柔軟性をフルに使い切っているからなのです。
使い方をよくするといっても具体的にどう使えばいいのか分からないのが実際のところだと思います。全ての人に共通する使い方の大まかなヒントとしては、
- まず軸脚の股関節に十分に体重をのせる
- 身体の回転を起こすことなく、横方向に真っ直ぐステップする
(アマ選手はほとんどこれが出来ていません)
※このとき、踏み出し脚で着地していこうとするのではなく、軸脚だけで身体を捕手方向に進めていく。骨盤よりも頭が後ろに倒れていると、勝手に腰の回転が始まってしまいます。
- 上体を腰よりも後ろに残し、肩越しに目標を見据える姿勢で着地を迎える。
※ 「2」で軸脚だけで身体を進めるので、「3」の上半身の角度や姿勢は脚を上げたときか降ろしていった時点で出来ていて、そのまま着地までステップしていきます。
- 腕は、脚の降ろし始めと同じタイミングでテイクバックを開始して、着地の時点で左右の肩の延長上に肘が位置している。
- 腕はリラックスさせたまま、体幹の回転によって勝手に振られるように使う。
※ そのため、ステップのエネルギーを着地した瞬間にそのまま回転に活かすことが大切で、そのタイミングを作るには、着地の時点ですでに肘が「4」の位置で、ボールを持った手は肘の高さを追い越していなければなりません。
※ 体幹の回転に腕が勝手に振られるということは、リリース時でも肘は左右の肩の延長上にあり、ボールも遠心力でそのさらに延長上で放たれることになります。
(オーバースローでもアンダースローでも同様、腕の角度は身体の傾きで作る)
以上が筋力を使わずとも勝手に大きな力が生まれる連動動作のポイントです。
また、コントロールについて、ボールが抜けがちということですが、「2」と「5」の点を確認してみてください。多くの場合、回転して投げることばかりに意識が行き過ぎていて、「テイクバックが大きすぎる」「反り返る」「クロスステップ」するなどの傾向が現れて、捕手方向へ真っ直ぐ腕が戻るような「しなり」を形成できていません。しっかりとステップを行なうことで、ボールの描く軌跡は横長の楕円軌道に近くなり、多少リリースのタイミングがずれたとしても、ボールの行き先のずれは少なくなります。
また、腕を振るのではなく、振られるように使うことで、自分でボールを離すのではなく、体幹と腕が連動したリズムとタイミングの中で、いつも同じ一定のリリースポイントで、勝手にボールが放たれることになります。この意味でもしっかりとステップをして、そのエネルギーを回転に活かすことが大切になります。当然ステップの大きさや動き方が毎回違えばリリースポイントは安定しません。だから、投手は下半身を強化する必要があるのです。
この強化法は必ずしも投手用の特殊な方法である必要はありません。個々にフォームをチェックすれば特になにをすればいいか判断できますが、正しい使い方を理解した上で技術練習を積み、全面的に下半身を強化すればいいのです。
トレーニングについてですが、全身の柔軟性を高めるように、ストレッチにたくさん時間を割いてください。ストレッチ時にカーツを使用するのも効果的ですね。
特に股関節の左右開脚、前後開脚、内・外旋、シコ踏みのような「股割り」、肩関節の全可動域、体幹の捻りです。筋力は特殊な種目でなくても構わないので、股関節を含めた下半身全般と体幹の腹筋、背筋、腹斜筋です。肩は、肩甲骨周辺とインナーマッスルを中心に行なえば十分です。関節の軸さえ安定させれば、あとはリラックスしたよく動く状態を作ることが求められます。下半身に関しては、カーツを使って軽い重量(自重など)でのスクワットなども行なえば効果は早いです。
ただし、数値を上げることを目指すのではなく、あくまでフォームをつくる意識で行なってください。